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大阪地方裁判所 昭和58年(ワ)9200号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

二<証拠>によると、オートローン契約書と題する契約書が存在し、そこに、原告が自動車を購入するため富国生命から金員を借受けて割賦弁済することを約し、その借入金債務につき被告に連帯保証を委託するとともに、被告が連帯保証債務の履行として右借受金債務を代位弁済したときは、原告は被告に対して被告主張の内容の求償債務を負担してこれを履行する旨約し、かつ右求償債務につき執行受諾約款を付した公正証書を作成することに同意する旨の記載がある(以下、右約定、同意全部を一括して契約書記載の契約ということがある。)こと、そして原告名の記載の右横に原告の姓(松田)を刻した小判形印の印影と丸印の印影が顕出されていることが認められる。右二つの印影のうち原告名のすぐ横の小判形印の印影は原告の印によつて顕出されたことにつき当事者間に争いがないので、右乙第一号証の原告作成名義部分は一応成立が推定されるが、この点については、なおのちに判断する。

ところで、<証拠>を合わせると、昭和五七年一月一〇日ごろ、原告は、原告がパートタイマーとして勤務している喫茶店「和泉」の常連の客であつて、同喫茶店と同じビル内の「松原自動車」という名の事務所にいる朝井伊郎から、朝井の知人が自動車を購入するについて複数の保証人を必要としているところ、朝井が保証人の一人になるが、さらに保証人の頭数をそろえるため、原告に迷惑をかけることはないから原告の名を貸してほしい、そのために実印と印鑑登録証を貸してほしい旨頼まれ、原告の実印である前記小判形印(甲第三号証)と印鑑登録証(甲第二号証)を一時朝井に貸したところ、朝井がこれらを使用して、原告の名で前記契約書記載の契約を締結し、かつ同契約書を作成したこと、原告自身は右契約締結及び契約書の作成に関与していないこと、なお、右契約書には右小判形印の印影以外に丸印の印影が顕出されているが、右契約書に捺印すべき場所として指示(と印刷)された個所には丸印の丸影が顕出され、小判形印の印影はその横に顕出されていること、さらに同契約書中に貼布された収入印紙の割印、及び捺印のいずれの部分も所定の捺印個所には丸印が押捺されていること、右丸印の印影は原告の所持する印によつて顕出されたものではないこと(右丸印の印影と当審における原告本人尋問の際の宣誓書に押捺された丸影とは、似てはいるが、異なるものであることを、原告はその本人尋問において指摘しており、二つの印影を対照して、その指摘は正しいものとうかがえる。)が認められ、これに反する証拠はない。

以上によれば、右契約書記載の契約は、朝井が原告の代理人としてこれを締結したことになるが、原告が朝井に対し、自動車を購入し、それに関して自己を主債務者として右契約書記載の契約を締結する代理権限を与えたことを認めうる証拠はなく、<証拠>によれば、原告は自ら自動車を買う必要もなく、朝井が原告の印を用いて原告の名で右契約書記載の契約を締結して同契約書を作成したことは、まつたく原告の意に反したものであることが明らかである。したがつて右乙第一号の原告作成名義部分の成立の推定は覆され、右契約書記載の契約は、代理人による契約として有効に締結されたものとはいえないこととなる。

そこで、(被告の主張はないが、念のため)表見代理の成否について検討する。

<証拠>によると、被告においては、昭和五七年一月一二日、被告従業員が原告の債務負担意思等確認のため原告の勤務先(喫茶店和泉)に電話をかけていること、右電話による調査結果が調査票(乙第三号証)に記載されているが、原告は前記のとおり喫茶店和泉にパートタイマーとして勤務しているのに、調査票には同喫茶店を原告が自営している旨記載されており(契約書にも同旨の記載がある。)この点は客観的事実と異なることが認められる。かりに契約書記載のように原告が自動車のようなある程度高額の商品を購入するとすれば、原告が喫茶店を自ら経営しているか、単なるパートタイマーであるかは、その収入、ひいて支払能力にも関係があり、被告にとつてかなり重要な調査事項といえるが、右のとおり被告はこの点に十分の調査を尽くしていない。そして、前記契約書には前記のとおり、原告名の二種の印が押捺されており、しかも二種の印のうち実印(小判形印)はいずれも契約書の捺印指定個所以外に押捺されていて、指定個所に押捺された丸印よりのちに押捺されたとみられる状況にあるところ、かりに原告自身または原告から正当に代理権原を与えられた代理人が実印を用いて契約書を作成したとすれば、契約書に二種の印が右のように押捺されることはまず考えられないことであり、被告としては、契約書が原告の意思に基づいて作成されたかどうかについてより慎重に調査すべき事情があつたといえるが、証拠を総合しても、被告が右の点につき調査を尽くしたことは認められない。こうした事情があることを考えると、原告は被告から右のころに債務負担意思確認の電話をうけたことがない旨の原告本人の供述部分も、一概に否定しえないところであり、被告は、右契約書記載の契約締結に関与したとみられる朝井に原告を代理する権限があると信じたとしても、そう信じるにつき過失があり、結局、表見代理の規定によつて右契約書記載の契約の効力が原告に及ぶことはないといえる。  (岨野悌介)

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